夏場の高齢者ケアにおいて、熱中症は命に直結する重要なリスクです。総務省消防庁の発表でも、救急搬送される熱中症患者の半数以上が高齢者で、住居や施設内での発症も少なくありません。看護・介護の現場では、室内であっても油断できない状況が続いています。
本記事では、高齢者の熱中症を防ぐために知っておきたい早期発見のサインと、施設ごとに役立つ予防プロトコルを、現場で使える形でわかりやすく解説します。
高齢者が熱中症になりやすい理由と現場の実態

高齢者特有のリスク要因
高齢者は若年層と比べて、体温調節機能や水分保持能力が低下しています。発汗量が減ることで体に熱がこもりやすく、のどの渇きも感じにくいため、本人が気づかないうちに脱水が進行することが少なくありません。
また、心疾患や糖尿病などの基礎疾患、利尿剤や降圧剤などの服薬も、熱中症リスクを高める要因として知られています。施設では、こうした個別の背景を踏まえたうえで観察することが欠かせません。
現場で起こりやすい状況
消防庁の集計では、熱中症による救急搬送の発生場所として「住居」が最も多く報告されています。施設や自宅の居室など、本人が安心して過ごしている空間こそ、見えにくいリスクの温床になっていることがわかります。
- エアコンを使わず窓を閉め切っている居室
- 水分摂取を遠慮しがちな食事・おやつの時間帯
- 入浴後・離床直後の脱水しやすいタイミング
- レク・送迎などで一時的に屋外へ出る場面
現場では「いつもと同じ環境」こそ、最も注意したい場面と言えます。
参照:総務省消防庁「熱中症情報」(閲覧日:2026年5月15日)
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html
現場で押さえる早期発見サイン

熱中症は重症化する前のサインをいかに早く拾えるかが勝負です。看護師・介護士が日々の関わりの中でチェックしたい観察点をまとめます。
身体症状のサイン
初期段階では、見落としやすい軽い症状から始まることが多くあります。
- 顔のほてり・皮膚の発赤
- 大量の発汗、または逆に汗が止まる
- 手足のしびれ、軽いけいれん
- 頭痛・吐き気・めまい
「いつもより顔が赤い」「肌が乾いている」といった微妙な変化も、声かけのきっかけとして大切です。
行動・会話のサイン
身体症状より前に、行動の変化として現れることもあります。
受け答えがいつもより遅い、話のつじつまが合わない、表情がぼんやりしている、といった様子は、軽度の意識障害のサインかもしれません。普段の様子を知っている職員ほど気づきやすいポイントです。
バイタル変化のサイン
バイタル測定の場面では、次のような変化を早期発見の手がかりにできます。
- 体温37.5℃以上の上昇
- 脈拍の増加(普段より20回/分以上)
- 血圧低下や起立性のふらつき
- 尿量の減少、尿の色が濃い
参照:環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」(閲覧日:2026年5月15日)
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
見落としやすいケースと初期対応の落とし穴
早期発見と同じくらい大切なのが、「気づきにくいケース」を意識して関わることです。
意思表示が難しい利用者
認知症や失語のある方は、暑さや喉の渇きを自分から訴えにくい傾向があります。
言葉ではなく、落ち着きのなさ、衣服を脱ごうとする仕草、食事量の急な低下といった非言語的なサインを観察することが重要です。
室内型熱中症
「屋外に出ていないから大丈夫」という思い込みは禁物です。
居室の温度が28℃を超えていても、本人がエアコンを嫌がる、寒がる、というケースも多くあります。室温と湿度を客観的に管理する習慣が、室内型熱中症を防ぐ第一歩になります。
軽症と判断しがちな症状
「少し疲れているだけ」「夏バテかな」と片付けてしまうと、対応が遅れることがあります。応急処置の基本は次のとおりです。
- 涼しい場所へ移動させる
- 衣服をゆるめ、首・脇・足の付け根を冷やす
- 水分・塩分を少しずつ補給する
- 意識がはっきりしないときは無理に飲ませず救急要請
迷ったら様子を見るより、まず冷却と相談を優先する姿勢が望まれます。
参照:厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら」(閲覧日:2026年5月15日)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/happen.html
施設別予防プロトコル

熱中症対策は、施設の特性によって押さえどころが変わります。ここでは現場でそのまま使える予防プロトコルを、形態別に整理します。
特別養護老人ホーム・有料老人ホーム
居室で過ごす時間が長い分、環境管理が中心になります。
- 居室・共有スペースの室温を26〜28℃、湿度を50〜60%に保つ
- 定時の水分提供(起床時・10時・15時・就寝前など)
- 入浴前後の体温・脈拍チェック
デイサービス・通所介護
送迎や屋外レクなど、環境変化が大きいのが特徴です。
- 送迎車内の冷房・遮光カーテンを徹底
- 到着時に顔色・発汗の有無をチェック
- 暑さ指数(WBGT)に応じて屋外レクを変更する基準を共有
訪問看護・訪問介護
利用者宅の環境はスタッフがコントロールしにくいため、声かけと記録が鍵になります。
- 訪問時に必ず室温・湿度を計測し記録する
- エアコン使用を促し、電気代を理由に拒む場合はケアマネと共有
- 独居の方には次回訪問までの水分の取り方を一緒に決める
病院病棟
入院患者は脱水や発熱の原因が多岐にわたるため、熱中症との鑑別が必要です。
- 夏季の発熱はまず環境要因も疑う
- 輸液・服薬内容と症状を合わせて評価
- 窓際ベッド・空調の風向きを再確認する
参照:厚生労働省「熱中症を防ぎましょう」(閲覧日:2026年5月15日)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/prevent.html
熱中症ゼロを実現するためのチーム体制づくり

個人の気づきだけに頼ると、見落としは必ず生まれます。施設として熱中症ゼロを目指すなら、チームで支える仕組みが欠かせません。
情報共有の仕組み
申し送りや記録の中に「水分摂取量」「室温」「顔色の変化」など熱中症関連の項目を組み込みます。
朝のミーティングで暑さ指数(WBGT)を全員で確認するだけでも、その日の警戒レベルが揃いやすくなります。
環境管理の標準化
温度計・湿度計を各居室や共有スペースに設置し、誰が見ても同じ判断ができるようにしておきます。エアコン設定温度や換気のタイミングをルール化しておくと、夜勤帯や応援スタッフも迷いません。
個別ケアプランへの落とし込み
利用者ごとに、熱中症リスクの高さと注意点をケアプランに明記しておきます。
- 基礎疾患・服薬内容によるリスク評価
- 水分の好み・1日の目安量
- 冷房・服装に関する本人の意向
「全員に同じ対応」ではなく、「その人に合わせた予防」が、熱中症ゼロへの近道となります。
参照:厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」(閲覧日:2026年5月15日)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/
まとめ
高齢者の熱中症は、体温調節機能の低下や基礎疾患、生活環境などが重なって起こる、現場でこそ防げる健康被害です。早期発見のサインを共有し、施設の特性に合わせた予防プロトコルを整え、チームで取り組むことで、重症化のリスクは大きく下げられます。
「今年も例年通り」ではなく、利用者一人ひとりの状態に目を向ける夏のケアを心がけ、熱中症ゼロを目指していきましょう。