10月1日からカスハラ対策が義務化|看護・介護職を守るために職場で整えたいこと

看護・介護職は、利用者の暮らしと健康を支える、人との関わりが中心の仕事です。「ありがとう」の一言に励まされる日がある一方で、利用者やご家族からの強い言葉や理不尽な要求に、心をすり減らしている人も少なくありません。「同じ苦情を何時間も繰り返される」「大声で怒鳴られる」「必要以上に体に触れられる」。それでも「ケアの仕事だから」と自分に言い聞かせ、ひとりで抱え込んでしまうこともあるでしょう。
こうした行き過ぎた言動は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれ、2026年10月1日からは、その対策が事業主の義務となります。
厚生労働省によると、顧客などからの迷惑行為として最も多いのは「継続的な、執拗な言動」で、次いで「威圧的な言動」が挙げられています。「利用者のために」と向き合うあなた自身が守られてこそ、よいケアは続けられます。今こそ、「職員を守る職場づくり」について、一緒に考えてみましょう。

参照:厚生労働省 Webマガジン「従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/series/20260820.html

看護・介護現場に多いカスハラの特徴

口元に手を当てて考え込む看護師

距離の近さから生じるハラスメント

看護・介護職は、利用者の体や暮らしに直接触れる仕事です。
入浴や排泄の介助、居室や自宅への訪問など、相手との距離がとても近い分、言動がエスカレートしやすい面もあります。

「何度説明しても同じ要求を繰り返される」
「ご家族から毎日のように長い電話がある」
「訪問先で大声で責め立てられた」

こうした積み重ねが、“言えない疲れ”となって心の負担につながっていきます。

訪問・夜勤で孤立しやすい環境

訪問看護や訪問介護では、職員が一人で利用者宅に入ります。夜勤帯の施設でも、少ない人数で多くの利用者に対応しなければなりません。すぐに助けを呼べない状況では、身の危険を感じても「その場で耐える」しかなくなってしまいます。つまり、働く環境そのものが、ハラスメントを抱え込みやすい構造になっているのです。

「ケアだから」という思い込み

看護・介護職には、「どんな相手にも優しく、穏やかに接すること」が求められます。相手の不安や苦しみを受け止めようとするあまり、理不尽な言動まで「仕事のうち」と受け流してしまう――。そんな日々が続くと、「自分の対応が悪いのかもしれない」と感じるようになることもあります。
ただし、認知症などの症状による言動と、カスハラは分けて考える必要があります。まずは「我慢が当たり前ではない」と気づくことが大切です。

放置するとどうなる?

部屋の隅で膝を抱えて落ち込む人

カスハラの影響は、最初はごく小さな違和感から始まります。

  • 出勤前に気が重くなる
  • 特定の利用者宅への訪問が怖い
  • 電話が鳴るたびに身構えてしまう
  • ケアに自信が持てなくなった
  • 「辞めたい」と感じることが増えた

こうした状態を見過ごしてしまうと、心身の不調や離職につながるおそれがあります。
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」でも、職員個人ではなく、事業所として組織的に取り組むことの大切さが示されています。
特に、責任感の強い人ほど「自分がうまく対応できなかったから」と抱え込みがちです。しかし、我慢の積み重ねは決して美徳ではありません。

“ひとりで抱えずに報告する”ことこそが、プロとしての第一歩です。

参照:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf

義務化で押さえたい職場の対策|方針・相談・対応

人差し指を立ててポイントを示す介護職員

【方針】カスハラを許さない姿勢の明確化

  • 基本方針を定めて周知する
     「職員へのハラスメントは許さない」という事業所の考え方を明文化し、全職員に伝えましょう。
  • 具体例を共有する
     どんな言動がカスハラにあたるのか、身体的暴力・精神的暴力・セクハラなどの例を示しておきます。
  • 利用者・ご家族にも伝える
     契約時や重要事項の説明の場で、ハラスメントへの方針をあらかじめ伝えておきます。
  • 悪質なケースへの対応を決めておく
     警察への相談やサービス内容の見直しなど、判断の基準を事前に決めておきましょう。

方針がはっきりしていると、職員は「自分が悪いのでは」と迷わず、組織の一員として落ち着いて対応できるようになります。

【相談】声を上げやすい窓口づくり

  • 相談窓口を設けて周知する
     誰に、どうやって相談すればよいかを明確にし、全職員に伝えておきます。
  • 担当者の対応力を高める
     相談を受ける担当者が適切に対応できるよう、研修などで準備しておきましょう。
  • 相談しやすい雰囲気をつくる
     「こんなことで相談していいのかな」と迷わせない、日頃の声かけが大切です。

職場全体で「ひとりで抱えない」を合言葉にできると、安心してケアに向き合える職場文化が育ちます。

【対応】起きた後の迅速な対応と再発防止

  • 事実関係をすばやく確認する
     日時や言動の内容を記録し、関係者から話を聞いて、正確に状況を把握します。
  • 被害を受けた職員に配慮する
     担当の変更や休息の確保など、心身の回復を優先した対応を行いましょう。
  • 再発防止策を検討する
     起きたことを職場全体で振り返り、対応手順や利用者・ご家族への説明を見直します。相談したことで不利益な扱いを受けないことも、あわせて明確にしておきます。

参照:厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!カスタマーハラスメント対策の義務化」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf

看護・介護現場ならではの工夫

クリップボードを持って並ぶ男女の介護職員

症状による言動との切り分け

認知症の行動・心理症状(BPSD)による言動は、カスハラではなく、ケアで向き合うべき症状です。主治医やケアマネジャーの意見も参考にしながら、「症状への対応」と「ハラスメントへの対応」を分けて考えることで、職員も利用者も守ることができます。

訪問時の安全の確保

一人で訪問する職員を守るために、リスクの高い利用者宅では複数名での訪問を検討しましょう。訪問前後の連絡ルールや、危険を感じたらその場を離れてよいという基準を決めておくことが、安心して訪問できる土台になります。

記録と共有を習慣にする

気になる言動があったときは、日時や内容をその日のうちに記録し、上長や同僚と共有しましょう。記録は、事実関係を確認する材料になるだけでなく、職員自身を守る根拠にもなります。「共有すること」が当たり前になれば、ひとりで抱え込む職員も減っていきます。

チェックリスト:カスハラ対策が整った職場か見極めよう

チェックリストにペンで印をつける手元
  • ハラスメントへの方針がある
  • 相談窓口がはっきりしている
  • 研修が定期的に行われている
  • 訪問時の連絡ルールがある
  • 複数名で訪問できる体制がある
  • 利用者や家族にも方針を伝えている
  • 相談した後の流れが決まっている

これらのうち当てはまらない項目が多いときは、見学や面接で詳しく確かめてみましょう。「利用者やご家族から強い言動を受けたとき、どう対応していますか」と聞くのもひとつの方法です。
職場を選ぶことは、「自分を守る力」でもあります。安心して働ける場所を見つける一歩を、どうか大切にしてください。

まとめ:職員が守られる職場が、よいケアを届ける

クリップボードを持ってほほ笑む看護師

看護・介護職は、人の暮らしと命を支える尊い仕事です。けれども、働く人が安心できなければ、よいケアは続けられません。

カスハラ対策は、特別なことではありません。

  • ひとりで抱えない
  • 記録して共有する
  • 組織で職員を守る

この3つを意識するだけで、職場は少しずつ変わっていきます。

「利用者のために頑張るあなた」が、「職場にしっかり守られている」。
それが、これからの看護・介護を支える新しいスタンダードです。10月の義務化をきっかけに、自分の職場の取り組みを一度見直してみましょう。

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