9月は「認知症月間」|『帰りたい』にどう向き合う?離設・行方不明を防ぐ初動と地域連携プロトコル

「夕方になると玄関の前に立つ」「荷物をまとめて『家に帰ります』と繰り返す」。認知症のある方の帰宅願望は、看護・介護の現場が日常的に向き合う場面のひとつです。ただ、その一歩が屋外へ向かうと、転倒や交通事故、行方不明といった重い結果につながることがあります。
本記事では、9月の「認知症月間」に合わせて知っておきたい帰宅願望への向き合い方と、離設・行方不明を防ぐための初動や地域連携のプロトコルを、現場で使える形でわかりやすく解説します。

9月の「認知症月間」に、現場で見直したいこと

ソファに座る高齢女性の話に、笑顔で耳を傾ける男性介護職員

9月は認知症について考える月

9月は「認知症月間」、9月21日は「認知症の日」と定められています。世界アルツハイマーデーに合わせて、自治体や関係団体が啓発イベントや相談会を開く時期でもあります。
現場にとっては、日々のケアを立ち止まって点検する機会になります。制度や研修の話にとどめず、目の前の一人ひとりの暮らしに引き寄せて考えたい時期です。

「いつものこと」として流している対応こそ、いま見直したい部分かもしれません。

「帰りたい」の背景にあるもの

帰宅願望は、困らせるための行動ではありません。本人の中には、次のような理由があることが少なくありません。

  • 見慣れない環境で、ここがどこか分からない不安
  • 「子どもを迎えに行かなければ」という役割の記憶
  • 夕方になると強まる落ち着かなさ
  • 痛み・空腹・トイレなど、言葉にしにくい不快感

背景を読み解こうとする姿勢が、結果として離設のリスクを下げることにつながります。「なぜ今なのか」を考えることが、最初の一歩になります。

参照:厚生労働省「認知症の日/認知症月間(世界アルツハイマーデー/世界アルツハイマー月間)に寄せて」(閲覧日:2026年9月2日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00026.html

平時に押さえておきたい「帰りたい」への向き合い方

頭に手を当て、不安そうな表情でうつむく高齢女性

否定せず、まず受け止める

「今日は帰れません」と正面から否定すると、本人の不安はかえって強まります。まずは「そうだったんですね」と受け止め、気持ちが落ち着くまで歩調を合わせることが大切です。
そのうえで、お茶に誘う、一緒に別の場所へ移動するなど、自然に気持ちが切り替わる関わりを探ります。

落ち着いて過ごせる環境をつくる

環境を整えるだけで、外へ向かう行動が減ることもあります。次のような工夫が現場で使われています。

  • 出入口が視界に入りにくい動線にする
  • 夕方の照明を明るめに保ち、不安をやわらげる
  • 本人になじみのある写真や持ち物を居室に置く

一人ひとりの「行動のパターン」を共有する

いつ、どんな場面で「帰りたい」が出やすいのかは、人によって違います。時間帯やきっかけ、落ち着いた関わり方を記録に残し、チーム全員が同じ対応を取れるようにしておきます。

参照:厚生労働省「認知症施策推進基本計画」(閲覧日:2026年9月2日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf

見落としやすいサインと初動対応の落とし穴

車いすに座る高齢女性の後ろから、笑顔で声をかける男性介護職員

「歩けないから大丈夫」という思い込み

普段は車いすを使っている方が、ふとした瞬間に立ち上がって歩き出すことがあります。移動能力だけで判断すると、想定から漏れてしまいます。
「この人は出ていかない」という前提を、定期的に見直しておくことが必要です。

人手が薄くなる時間帯

離設は、送迎の出入りが重なる時間帯や、職員の少ない夜間・早朝に起こりやすくなります。玄関の施錠や見守りの担当を、時間帯ごとに決めておくことが欠かせません。

「まず探す」で止まってしまう初動

姿が見えないと分かったとき、施設内を探すだけで時間が過ぎてしまうことがあります。次の点をあらかじめ決めておきます。

  • 何分探して見つからなければ警察へ届け出るか
  • 家族・ケアマネジャーへ誰がいつ連絡するか
  • 服装や身体的特徴、写真をすぐに出せる状態にしてあるか

届け出が早すぎて困ることはありません。ためらわない基準を共有しておくことが、発見までの時間を縮めます。

参照:警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」(閲覧日:2026年9月2日)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R07yukuefumeisha.pdf

施設別・離設リスクへの対応プロトコル

記録用紙に書き込みながら高齢女性の様子を確認する女性看護師

離設への備えは、施設の形態によって押さえどころが変わります。ここでは現場でそのまま使える対応のポイントを、形態別に整理します。

特別養護老人ホーム・有料老人ホーム

生活の場であるため、閉じ込めずに安全を守る工夫が中心になります。

  • 玄関・非常口のセンサーと、反応したときの担当の明確化
  • 夕方に落ち着かなくなりやすい方の見守り体制の厚み付け
  • 写真と身体的特徴をまとめた緊急連絡シートの整備

デイサービス・通所介護

送迎と来所で人の動きが重なる時間帯が、そのまま弱点になります。

  • 到着時と出発時の人数確認をルール化する
  • 送迎車の乗り降りに付き添う担当を決めておく
  • 落ち着かない様子が見られた日の家族への申し送り

訪問看護・訪問介護

スタッフが常時そばにいないため、家族と連携した早期発見が鍵になります。

  • 訪問時に不在だった場合の確認手順の共有
  • 家族と決めておく連絡先と、探す場所の優先順位
  • GPS端末や見守りサービスなど地域資源の情報提供

病院・病棟

入院という環境の変化そのものが、混乱や離院のきっかけになることがあります。

  • 入院時に帰宅願望のリスクを評価し、記録に残す
  • 夜間の出入口とエレベーター周りの動線の確認
  • 離院時に院内・院外へ広げる連絡体制の整理

参照:厚生労働省「行方不明を防ぐ・見つける 市区町村・地域による取組事例」(閲覧日:2026年9月2日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001324286.pdf

認知症の人を支えるチーム体制と地域連携

玄関の扉を開け、高齢の利用者に笑顔であいさつする男性スタッフ

離設への備えは、気づいた人だけが頑張る形では続きません。チームで支える仕組みと、地域とのつながりが欠かせません。

気づきを一人で抱えない

「さっき玄関の方を見ていた」といった小さな気づきほど、共有されずに終わりがちです。申し送りやノートなど、誰でも書き残せる場所を決めておきます。

振り返りを次に生かす

ヒヤリとした場面があったときは、責める場ではなく仕組みを直す場として振り返ります。そのときの判断を記録に残し、手順の見直しにつなげます。

地域・家族との連携

自施設だけで抱え込まず、外とのつながりも備えておきます。

  • 市町村の見守りネットワークへの登録と連絡方法の確認
  • 近隣の店舗や交通機関との顔の見える関係づくり
  • 家族との情報共有と、届け出のタイミングのすり合わせ

参照:厚生労働省「認知症施策関連ガイドライン(手引き等)、取組事例(地域の見守り体制整備)」(閲覧日:2026年9月2日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000167804.html

まとめ

新緑の公園を並んで散歩する高齢の夫婦

「帰りたい」という言葉は、その人の暮らしや役割につながる手がかりです。背景を読み解く関わり、落ち着いて過ごせる環境、時間帯ごとの見守り、そして届け出をためらわない初動。ひとつずつ整えていくことで、行動を抑え込むのではなく、安全に見守れる現場に近づきます。

9月の「認知症月間」は、そうした関わり方を確かめ直す機会になります。新しい取り組みを増やすことよりも、いま行っている対応をチームで見直すところから始めてみてください。

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