介護の現場では、多職種が関わり合いながら利用者の生活を支えていますが、意見の食い違いや情報共有の難しさが課題となることも少なくありません。そこで注目されるのが「ファシリテーション」というスキルです。この記事では、介護現場でファシリテーションをどのように活用できるのか、その効果や具体的な実践方法を解説していきます。
介護現場に求められる「ファシリテーション」とは?

介護現場では、多職種が連携しながら高齢者や利用者の生活を支えています。看護師、介護士、リハビリ職、ケアマネジャーなど、それぞれの専門性を持つ人が協力する場面が多い一方で、意見のすれ違いや情報共有の難しさから、チームワークに課題を感じることも少なくありません。
こうした場面で注目されるのが「ファシリテーション」のスキルです。ファシリテーションとは、会議や話し合いの場を円滑に進め、参加者の意見を引き出し、合意形成を助ける役割を担うことを指します。介護現場でこのスキルを活用することで、より円滑なコミュニケーションと効率的なケアの実現が可能となります。
厚生労働省が公表している「チームで支える地域包括ケアシステム」でも、多職種間の協働や情報共有の重要性が繰り返し強調されています。つまり、介護の現場におけるファシリテーション力は、質の高いケアを提供するための基盤となるのです。
参照:厚生労働省『地域包括ケアシステム』(閲覧日:2025年9月29日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
ファシリテーションがもたらす効果

ファシリテーションの活用は、介護現場に多くのメリットをもたらします。
1.意見の可視化
立場や経験の異なる職員が自由に意見を出せる環境を作ることで、埋もれがちなアイデアや気づきを引き出せます。
2.情報共有の効率化
誰がどの情報を持っているかを整理し、チーム全体で共有する仕組みを整えることで、ケアの質が向上します。
3.合意に向けた進行をスムーズに
対立や意見の不一致があった場合でも、ファシリテーターが中立的な立場で進行することで、全員が納得できる結論に近づけます。
4.チームのモチベーション向上
発言が尊重される環境は、職員の働きがいにつながり、離職防止や定着率の向上にも効果が期待できます。
介護職員の離職率は厚生労働省の調査でも依然として高い水準にあり、特に人間関係の悩みが要因となるケースが多いとされています。ファシリテーションは、その課題を解決する有効なアプローチの一つといえるでしょう。
介護現場に必要なファシリテーションスキル

ファシリテーションにはいくつかの重要なスキルがあります。介護の現場に応用する際には、次の点が特に重視されます。
- 傾聴力
相手の発言を遮らずに聞き取り、理解する姿勢。利用者や家族との面談、職員会議などあらゆる場面で基本となります。 - 質問力
「どうすればもっと良くできるか?」など建設的な問いかけを行い、相手の考えを深めるサポートをします。 - 中立的な立場
特定の意見に偏らず、全員の声を公平に扱うことが信頼を生みます。 - 話し合いをうまくまとめる力
少数意見も尊重しながら、チームとしての最適解を見つける力が必要です。
これらは介護現場でのカンファレンスやミーティングだけでなく、日々のケアの中での声かけや情報伝達にも役立ちます。
実際の活用シーン

では、具体的に介護現場でどのようにファシリテーションが役立つのでしょうか。
(1) カンファレンスでの活用
利用者のケアプランを検討する際、多職種が集まるカンファレンスでは意見の対立も起こりやすいものです。ファシリテーターが話の流れを整理し、論点を明確にすることで、限られた時間の中で効率的に合意形成ができます。
(2) OJTや研修の場での活用
新人職員や実習生の教育の場では、参加者の意見を引き出すことで理解が深まり、学び合う風土が醸成されます。ファシリテーションは教育効果を高める要素としても重要です。
(3) 利用者や家族との面談
ケア内容に関して利用者や家族が不安を抱えている場合、ファシリテーションを意識して傾聴や質問を行うことで、相互理解が進み、信頼関係を築きやすくなります。
(4) 職場内の課題解決
例えば「夜勤の負担が大きい」といった課題に対して、意見を出し合い、合意形成を進める役割を担うことで、職員全体の働きやすさが向上します。
ファシリテーションを定着させるための工夫

スキルを一度学んでも、実践の場で活かせなければ意味がありません。定着させるためには以下の工夫が有効です。
- 日常業務での意識づけ
朝礼や引き継ぎの場など小さな会話の中で、相手の発言を引き出す姿勢を心がけることが大切です。 - ファシリテーター役を交代制にする
会議ごとに進行役を変えることで、多くの職員がスキルを身につける機会になります。 - 研修や勉強会での実践
厚生労働省が推進する「介護人材のキャリアパス支援」などでも、コミュニケーションや協働スキルの習得が重視されています。外部研修を取り入れるのも有効です。 - フィードバックを習慣にする
会議後に「進行はどうだったか」「もっと改善できる点は何か」といったフィードバックを行うことで、スキルが磨かれます。
ファシリテーションで広がる介護現場の可能性

ファシリテーションを取り入れることは、単に会議をうまく進めるだけでなく、介護現場全体の風土を変える力を持っています。
- 利用者中心のケアを実現
さまざまな意見を引き出し調整することで、利用者にとって本当に望ましいケアが実現しやすくなります。 - 職員の成長を促進
自分の意見が尊重される環境は、職員の主体性を高め、専門職としての成長を促します。 - 働きやすい職場づくり
対立を恐れず意見を出し合える雰囲気は、職員同士の信頼関係を深め、結果として離職防止や人材定着につながります。
このように、ファシリテーションは介護現場の課題を解決し、未来に向けた可能性を広げる重要なスキルといえるでしょう。
まとめ

介護現場におけるファシリテーションは、単なる「会議の進行役」にとどまらず、チーム全体のコミュニケーションを円滑にし、利用者に最適なケアを届けるための基盤となります。
厚生労働省が掲げる「地域包括ケアシステム」でも、多職種の連携と協働が鍵であるとされています。その中心にあるのが、意見を引き出し、調整し、合意形成へ導くファシリテーションスキルです。
日々の業務の中で少しずつ意識して取り入れることで、介護現場はより活気にあふれ、働きやすく、利用者にとっても安心できる場に変わっていきます。 一人ひとりがこのスキルを身につけ、実践していくことで、介護現場はさらに前向きで協力的な環境に発展していくでしょう。