近年、働き方改革や副業解禁の流れを受けて、「ダブルワーク」や「副業」に関心を持つ介護職の方が増えています。介護職はシフト制で柔軟に働ける反面、給与水準の課題や人手不足の影響から、収入を補う目的で副業を考えるケースも少なくありません。こうした流れを背景に、「副業」や「ダブルワーク」という働き方が、選択肢の一つとして現実味を帯びてきているといえるでしょう。
ただし、「始めてみたけれど続かなかった」「本業に支障が出た」などの声も少なくありません。本記事では、介護職の副業の実情、メリット・注意点を整理し、実際に取り組む際のポイントをご紹介します。
なぜ、副業が注目されているのか

介護業界は高齢化に伴って需要が拡大している一方で、人材不足や処遇面の課題が指摘されています。厚生労働省「介護人材確保の現状について」によると、介護職員は今後ますます不足が見込まれており、一人ひとりの働き方の多様化も求められています。
そのような中で、副業は介護職の「働き方の選択肢」を広げる重要な手段となっています。
参照:厚生労働省「介護人材確保の現状について」(閲覧日:2025年9月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001485589.pdf
現状と実態のデータ:介護職×副業のリアル

まずはデータに基づく実態を押さえておきましょう。
副業や兼業をしている人の割合
厚生労働省が公表する「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」によれば、日本全体の副業実施率は 9.7 % です。医療・福祉部門(介護を含む)に限ると、副業実施率は 9.9 % と、わずかに全体平均を上回る水準です。つまり、おおよそ「10人に1人が副業をしている」状態であると言えます。
参照:厚生労働省「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」(閲覧日:2025年9月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000660780.pdf
実際にどんな副業があるのか

介護職の方が取り組みやすい副業には、以下のようなものがあります。
- 同業他社での夜勤・短時間勤務
夜勤専従や日勤のみのシフトで、現在の職場と調整して働くケース。 - 家事代行・ベビーシッター
介護職で培った「生活支援」「コミュニケーション」のスキルを生かせる。 - 在宅ワーク(ライティング、データ入力、通販販売など)
体力的負担が少なく、自宅で空き時間を使える。 - 資格を生かした関連業務
介護福祉士や看護助手の知識を活かし、研修講師やセミナー補助などに携わる。
介護職員が副業を行うメリットとは

副業/ダブルワークを取り入れる理由は人それぞれですが、介護職員の立場から特に挙げられるメリットは以下のような点です。
1.収入の安定
最もわかりやすいメリットは「収入の底上げ」です。勤務時間を増やす、夜勤シフトを追加する、他職種で報酬単価の高い仕事をするなどによって、月々の手取りを増やすことが可能です。
特に夜勤バイトや夜勤専従シフトは、割増賃金・手当が付くことが多く、1回あたりの収入が比較的高い傾向があります。
2.スキルアップ・キャリア形成
副業を通じて、異なる職場形態や別分野の仕事に関わることで、本業では得られない経験や知識を得られることがあります。たとえば、訪問介護・デイサービス・ホームヘルプ・施設勤務など、施設形態を変えて掛け持ちすることで業務知見が深まり、利用者対応や介護プラン、レクリエーション等の手法を幅広く理解できるようになります。
また、介護職以外の副業(例えば在宅ワーク、ライティング、清掃、家事代行など)を取り入れることで、将来的なキャリアの選択肢を広げる足がかりにもなります。
3.自己肯定感・モチベーション維持
「介護だけではない自分」を持てることで、仕事全体に対するモチベーションを保つという声も少なくありません。副業で別の成功体験を得たり、新たな顧客から感謝を受けたりすることで、仕事への意欲を再燃させる効果も期待できます。
4.施設・制度側のメリット(間接的視点)
副業を許容する制度を導入する施設・事業所側にとっても、以下のような利点があります。
・職員の離職抑制・定着向上
・多様な勤務形態を認めることで募集ターゲット拡大
・職員が経験を他所で得て、ノウハウを持ち帰る可能性
実際に、厚生労働省の資料では、介護事業所で「兼業・副業」を含めた多様な働き方の導入をモデル的に行う取組が紹介されています。
副業の注意点

一方で、副業にはリスクや課題も存在します。取り組む前に以下の点を確認しておきましょう。
勤務先の就業規則の確認
介護事業所によっては副業禁止規定を設けている場合があります。違反すると懲戒処分の対象となる可能性もあるため、必ず就業規則を確認することが重要です。
健康管理の徹底
介護業務は身体的に負担が大きい仕事です。副業を無理に詰め込むと過労やミスにつながり、本業にも支障をきたします。また、睡眠時間の確保が難しくなり、判断力や集中力が低下する可能性もあります。厚生労働省も「副業・兼業における労働時間の通算について」を提示しており、労働基準法に基づく労働時間の上限(週40時間)がすべての勤務先を合算して適用されることを理解しておく必要があります。
情報漏洩・競業避止義務
同じ地域の介護事業所で働く場合、利用者情報や職場のノウハウを持ち出すことは厳禁です。副業内容が競合と判断されることもあるため、倫理的にも法的にも注意が必要です。
シフト調整・勤務調整の難しさ
副業先と本業先のシフトが重なったり、突発的な勤務要請に応じられなかったりする可能性があります。特に介護現場では、急な勤務変更や欠員補充が必要になることも多く、柔軟性のある勤務体制が求められます。
また、複数施設で掛け持ちすることで、勤務間の移動時間・交通費・移動負荷も考慮が必要です。
参照:厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について」(閲覧日:2025年9月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf
安全に副業を進めるためのポイント

副業を成功させるためには、次の点を意識すると安心です。
- まずは小さく始める
在宅ワークや単発アルバイトから始め、無理のない範囲で継続可能か確認します。 - 本業を最優先にする
介護職はチームで支える仕事です。本業に支障が出ないよう、休養や勤務シフトを調整しましょう。 - 信頼できる副業先を選ぶ
業務委託やクラウドソーシングでは、契約内容や報酬体系をよく確認し、トラブルを避けることが大切です。
まとめ

介護職にとって副業は、収入面の補填だけでなく、キャリアの幅を広げる有効な手段です。厚生労働省も副業・兼業の促進を後押ししており、社会的な追い風もあります。
しかし、健康管理や就業規則の確認を怠るとリスクが大きいため、慎重に計画することが不可欠です。
自分に合った働き方を模索しながら、本業と副業をバランスよく組み合わせていくことで、介護職としてのやりがいや安心感をより高めていけるでしょう。