秋は気候がよく、散歩や行事など体を動かす機会が増える季節です。一方で、日が短くなり夕方の足元が暗くなるなど、転倒につながる変化も少しずつ増えていきます。
政府広報によると、介護が必要になった主な原因のうち「骨折・転倒」は13.9%を占め、高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は交通事故の5倍以上にのぼります。
転倒は、筋力やバランス能力の低下、服薬、住まいの環境など、さまざまな要因が重なって起こります。だからこそ、「転ばない環境づくり」と「日々の小さな変化への気づき」が、ケアの質を左右する大切な要素となっています。
10月10日の「転倒予防の日」に合わせて、今回は転倒予防を次の4つの視点で整理し、それぞれで実践できるテクニックを紹介します。
① 環境づくり
② 観察・声かけ
③ 動作・移乗支援
④ けがを防ぐ安全支援
参照:政府広報オンライン「たった一度の転倒で寝たきりになることも。転倒事故の起こりやすい箇所は?」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.gov-online.go.jp/article/202106/entry-10260.html
環境づくりのテクニック

動線・照明の工夫
高齢者は、わずかな段差や暗がりでもつまずきやすくなっています。
そのため、次のような環境の工夫が効果的です。
- ベッドからトイレまでの動線に物を置かず、通り道を広く保つ。
- 夜間は足元灯をつけ、暗い場所をつくらない。
- 敷物の端や電源コードなど、つまずきの原因を取り除く。
- よく使う物は、かがんだり背伸びしたりせずに取れる高さに置く。
こうした工夫によって、利用者が“意識しなくても安全に動ける”環境を整えることができます。
転倒しやすい場所の見直し:浴室・玄関・ベッド周り
消費者庁の注意喚起でも、自宅での転倒は浴室・脱衣所やベッド周り、玄関などで多く起きていると示されています。
実践のポイント:
- 浴室や脱衣所には滑り止めマットを敷き、床の水滴をこまめに拭く。
例:「床を拭いてから歩きましょうね。私がそばにいますよ。」 - 玄関の段差には手すりや踏み台を設け、昇り降りを支える。
- ベッドの高さは、腰かけたときに足裏が床につく位置に調整する。
場所ごとのリスクを知ることで、予防の優先順位がはっきりします。
定期的な点検の習慣化
住まいや居室の環境は、季節や利用者の状態によって少しずつ変わっていきます。
たとえば「毎月第1週に、居室・廊下・浴室の段差や照明を確認する」というように、点検の時期と場所を決めておくことが効果的です。
点検の結果は職員同士で共有し、気づいた人がすぐに改善できる流れをつくっておきましょう。
参照:消費者庁「10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040
観察・声かけのテクニック

歩き方や立ち上がりの変化に気づく
転倒の前には、小さなサインが現れることがあります。
- すり足や小刻みな歩幅になっていないか確認する。
- 立ち上がりに時間がかかる、ふらつくといった変化を記録する。
- 手すりや壁に頼る回数が増えていないか見守る。
日々の変化を記録に残すことで、早めの対策につなげられます。
体調や服薬の変化を見逃さない
体調や薬の変化も、ふらつきの原因になります。
- 睡眠薬や降圧剤の追加・変更を確認する。
- 発熱や脱水で体力が落ちていないか観察する。
- 立ち上がった直後のめまいの有無を尋ねる。
気になる変化があれば、看護職や主治医、薬剤師と情報を共有しておくことが大切です。
「呼んでいいんですよ」と伝える
遠慮から、職員を呼ばずに一人で動こうとする方も少なくありません。
- 「トイレのときはいつでも呼んでくださいね」と伝える。
- ナースコールを手の届く位置に置く。
- 呼ばれたときは「呼んでくれてありがとう」と応える。
“呼んでも大丈夫”という安心感が、無理な単独行動を減らします。
動作・移乗支援のテクニック

本人の力を活かした立ち上がり支援
転倒を防ぎたいあまり、すべてを介助してしまうと、かえって筋力や自信の低下を招くことがあります。
「ひじ掛けを持って、少し前にかがんでから立ちましょう」など、一つひとつの動作を言葉で伝えながら、本人ができる部分は任せることが大切です。
できた動作は認めて、次の自信につなげましょう。
移乗・トイレ動作の工夫
移乗やトイレ動作は、転倒が起こりやすい場面のひとつです。
次のような工夫を取り入れましょう。
- 車いすのブレーキとフットレストを必ず確認する。
- かかとのある、サイズの合った靴を選ぶ。
- 排泄のリズムを把握し、早めにトイレへ誘導する。
東京消防庁の救急搬送データでも、高齢者の住宅内での転倒は居室・寝室で最も多く起きており、日常の動作こそ注意が必要なことがわかります。
参照:東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」(閲覧日:2026年9月30日)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/nichijo/kkhansoudeta.html
けがを防ぐ安全支援のテクニック(身体拘束に頼らない考え方)

転んでもけがを防ぐ工夫
転倒をゼロにするのは難しくても、けがの程度を小さくすることはできます。
支援の工夫としては:
- 低いベッドを活用し、落下時の衝撃を減らす
- ベッド脇に衝撃をやわらげるマットを敷く
- 本人の動線に沿って手すりを設置する
- センサーを活用し、起き上がりに早く気づく
小さな工夫を積み重ねることで、安心して動ける環境を整えられます。
身体拘束に頼らず安全を守る
安全の確保と同時に、本人の「動きたい」という意思を尊重することも大切です。
- 支援内容を決める際は、「どうしたいか」をゆっくり聞く
- 「動かないで」ではなく、「どうすれば安全に動けるか」を一緒に考える
- 転倒のリスクと予防策を、ご家族とも共有しておく
厚生労働省の手引きでも、身体拘束に頼らない工夫の大切さが示されています。“その人らしく動ける安全”を支える姿勢が、質の高いケアにつながります。
まとめ:転倒予防で大切にしたい心得

転倒予防の基本は、「動かさない」ことではなく「安全に動ける」状態を支える姿勢です。最後に、支援者が意識したい3つのポイントを整理します。
- 転ばない環境を整える
段差や照明、動線など、転倒の原因は身の回りに多く潜んでいます。支援者の目線ではなく、利用者の目線で「どこでつまずきそうか」を探りましょう。定期的な点検を習慣にすることで、事故を未然に防ぐことができます。 - 小さな変化に気づき、共有する
歩き方や立ち上がり、服薬の変化は、転倒の前ぶれであることがあります。気づいたことを記録し、職員同士や医療職と共有することで、早めの対策につながります。日頃の声かけも、無理な単独行動を防ぐ大切な支援です。 - 動きたい気持ちを尊重しながら安全を守る
支援とは「動かないようにする」ことではなく、「安全に動けるよう支える」ことです。本人の意思を大切にしつつ、けがを防ぐ工夫を重ねることで、“その人らしさ”を保ちながら生活を支えることができます。