高齢化が進むなか、介護・福祉・医療・在宅ケアなどで高齢の方と関わる機会が増えています。その中で、単に「業務として接する」だけでなく、高齢者自身が安心や尊重を感じられる関係を築くことは、ケアの質や日々の暮らしの満足感、そして心理的な安心につながります。また、ニーズ・シーズマッチング支援事業が示す「高齢者のコミュニケーション(意思表出)支援」の課題の中には、「長時間臥床・他者との交流が少ない」「意思をうまく伝えられない入所者が一定数いる」という現状が示されており、信頼関係の構築・維持にはコミュニケーション手段や方法の工夫が必須です。
高齢者は身体や感覚の変化に加え、孤独感や不安を抱えることも多く、「安心して話せる相手の存在」が日々の暮らしの安心につながります。今回は、信頼関係を育むための実践的なコミュニケーション術を紹介します。
参照:ニーズ・シーズマッチング支援事業「高齢者のコミュニケーション(意思表出)支援」(閲覧日:2025年10月22日)
https://www.mhlw.go.jp/kaigoseisansei/ns/needs/page/n0046.html

高齢者の生活・社会背景
まず、高齢者が置かれている環境や心理的な背景を知ることが、信頼関係を築く土台となります。例えば、内閣府の「令和5年版高齢社会白書」では、コロナ禍を含めて「高齢者のコミュニケーション等への影響」について記述されており、高齢者の外部との交流の機会や、人と直接会って話す機会が減ったという調査があります。
高齢者は身体・認知・感覚・社会的状況などで変化を抱えつつ、「人とのつながり」「安心できる関係」を求めていることが多いのです。
高齢者のコミュニケーション特性
次に、コミュニケーションという観点から、高齢者ならではの“感じ方・理解の仕方・表現の仕方”を理解しておきましょう。
たとえば、高齢者とのコミュニケーションでは、「低いトーンで、ゆっくり・はっきり伝える」ことが大切です。高齢になると高い音が聞き取りにくくなることがあるため、口の動きから話の内容をくみ取るサポートがあるとより分かりやすくなります。
参照:内閣府「令和5年版高齢社会白書」(閲覧日:2025年10月22日)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/05pdf_index.html
信頼関係を築くためのコミュニケーション術

ここからは、信頼関係を築くためのコミュニケーション術を、ステップごと・場面ごとに整理していきます。
「きく」— 傾聴と観察
信頼関係を築く第一歩は、相手の話をしっかり聴くことです。
相手の話を遮らず、うなずきや表情で関心を示すことで「自分の話を受け止めてくれる人」と感じてもらえます。さりげない相づちや笑顔も大切なコミュニケーションです。
「つたえる」— 言葉と非言語の工夫
情報を伝えるときは、専門用語を避けて短く区切って説明するようにします。言葉だけでなく、表情や声のトーン、姿勢などの非言語的な要素も大切です。研究でも、非言語の手段は「感情や意図を伝える力が強い」と示されています。
さらに、「〜してみましょうか?」といった提案型の言い方で相手の選択を尊重する姿勢を見せることが、信頼につながります。
「かかわる」— 共感と尊重
高齢者のこれまでの経験や価値観を尊重し、会話に取り入れることで関係が深まります。たとえば、「昔はどんなお仕事をされていたんですか?」といった問いかけが効果的です。
一方で、「また忘れたの?」などの言い方は自尊心を傷つけ、信頼を損ねることがあります。
「つづける」— 関係の維持が信頼を育てる
信頼は一度築けば終わりではなく、日々の関わりの中で少しずつ深まります。
短い時間でも定期的に声をかけたり、前回の話題を覚えておくことで、「自分のことを気にかけてもらえている」と感じてもらえます。
実践のためのチェックリスト

際に現場や訪問先で活用できるよう、以下のチェックリストに整理しました。
- 相手の名前を呼んで、「○○さん」と声をかけているか
- 話すとき、低めのトーンで、ゆっくり・はっきり話しているか
- 相手の目を見て、うなずきや傾聴の姿勢を取っているか
- 相手の人生や趣味、経験を話題にして関心を示しているか
- 選択肢を示し、相手が自分で選べるようにしているか
- 定期的に顔を出したり、声をかける機会を確保しているか
- 表情・動作・視線などの非言語サインに気を配っているか
- 変化やトラブルの際に、まず「気づく・声をかける」姿勢を持っているか
こうしたチェックを習慣にすることで、信頼関係の土台をしっかりと補強することができます。
信頼関係を深めることによるメリット

信頼関係を丁寧に築くことで、次のようなメリットがあります。
- 高齢者が安心して話せる環境が生まれ、ニーズや不安を早めに把握できます。
- ケアや支援を受ける方が「自分は大切にされている」と感じることで、心理的な安定や生活意欲の向上につながります。
- 意欲低下・孤立・コミュニケーションの途絶といった問題やトラブルを予防しやすくなります。
- 継続的な関わりは、介護予防や地域包括支援、自立支援にもつながります。厚生労働省の「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」でも、日常生活支援や地域参加、交流の重要性が示されています。
これらのメリットは、支援者やサービス提供者側にとっても、より質の高い関係構築や業務の遂行につながるため、双方にとってプラスになります。
参照:厚生労働省保険局高齢者医療課「高齢者の特性を踏まえた保健事業 ガイドライン第3版」(閲覧日:2025年10月22日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001240315.pdf
よくある失敗と上手な対応方法

信頼関係を築く中で、よくある失敗とその回避・修正ポイントをいくつかご紹介します。
- 一方的な説明や指示になってしまう
→ 相手のペースに合わせ、選択肢を示しながら対話形式で進めましょう。 - 言葉が早すぎたり、専門用語を使ったり、声が高すぎる
→ 声のトーンや話す速さ、言葉のわかりやすさを意識します。「低めのトーン」「ゆっくり・はっきり」を実践することがポイントです。 - 相手の気持ちや経験を無視してしまう
→ 趣味や人生、価値観を会話に取り入れて関心を示すことが大切です。 - 関わりが不定期・断続的になってしまう
→ 定期的に接触する機会を設け、信頼を少しずつ育てましょう。 - 変化やトラブルに気づくのが遅れる
→ 日頃から観察や傾聴の習慣を持ち、小さな変化に早く気づける体制を整えます。
こうした回避策を意識的に取り入れることで、信頼関係はよりしっかりと築かれます。
参照:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の方と関わるとき~大切な7つのポイント~」(閲覧日:2025年10月22日)
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/55.html
まとめ — 信頼は日々の関わりで育まれる

信頼関係は、「きく・つたえる・かかわる・つづける」の積み重ねです。
- 相手を理解し、傾聴する
- 言葉や非言語で丁寧に伝える
- 共感と尊重の姿勢で関わる
- 継続的に接点を持ち続ける
日々の小さな会話や共感、笑顔の積み重ねが、高齢者に「安心できる人」と感じてもらう信頼を育てます。
この信頼こそが、質の高いケアや支援の土台になります。